感動するマンガと「なんかしっくりこない」と感じるマンガの違いは何なのかな?
マンガや小説、映画などを読んだり見たりしていて、「なんだか既視感があるなぁ」と思ったり、逆に、「思っていた展開にならなくてモヤモヤする」なんてことはありませんか?
人の心を揺さぶるような要素というのはたくさんあり、これが正解というものはありません。
ですが、物語の構成のガイドとして広く使われているものもあります。
それが、「ヒーローズ・ジャーニー(英雄の旅)」と呼ばれるものです。
世の中で人気のあるマンガや映画にも、この「ヒーローズ・ジャーニー(英雄の旅)」が使われています。
この記事では、「ヒーローズ・ジャーニー」の概要についてご紹介していきます。
「ヒーローズ・ジャーニー(神話の法則)」とは?
「ヒーローズ・ジャーニー(英雄の旅)」は、アメリカの神話学者、ジョーゼフ・キャンベルが昔の神話を分析して編み出したものです。
簡単に言うと、ヒーローズ・ジャーニーというのは以下のようなストーリーです。
ヒーローズ・ジャーニー(Hero’s journey)とは
主人公は何かのきっかけで、冒険の世界へと旅立ち、数々の困難を乗り越え、最大の試練をクリアし、宝を得て、日常世界へと帰ってくる。
ジョゼフ・キャンベルの「ヒーローズ・ジャーニー(英雄の旅)」を物語制作に応用できるようにしたのが、クリストファー・ボグラーです。詳しくは、「作家の旅 ライターズ・ジャーニー」という本で学べます。
とても分厚い本ですが、訳も分かりやすく、読み応えがあります。マンガや小説などを作る人にもオススメです。
現在、世界で広く使われているのは、クリストファー・ボグラーが構成し直した「12のステージ」ですので、こちらをもとに解説していきます。
ヒーローズ・ジャーニーの12のステージ
ヒーローズ・ジャーニーをもう少し細かく分けると次のようになります。
幕 | ステージ |
---|---|
①出発 | 1. 日常世界 2. 冒険への誘い 3. 冒険の拒否 4. 師との出会い 5. 最初の戸口の通過 |
②イニシエーション(試練の旅) | 6. 試練、仲間、敵 7. 最も危険な場所への接近 8. 最大の苦難 9. 報酬 |
③帰還 | 10. 帰路 11. 死と復活 12. 宝を持っての帰還 |
最初の方はなんとなくイメージがつくけど、後の方になるにつれて、よく分からなくなるよ
例も使ってこれから解説していきます!分け方は正直「?」と感じる点もあると思うので、エッセンスを抑える気持ちで読んでみてください。
第一幕 出発
冒険の旅に出かける前から、ヒーローズ・ジャーニーは始まっているんだね!
1. 日常世界
物語は、主人公の平凡な日常生活から始まります。
日常のありふれた世界とのコントラストが、冒険の世界をより特別で色鮮やかなものにしてくれます。
例えば、「オズの魔法使い」では、コントラストを際立たせるために、日常世界は白黒、冒険世界はカラーとなっていたこともあります。
2. 冒険への誘い
ふとしたきっかけで、主人公が日常生活から冒険へと誘われます。
事件に巻き込まれたり、何かの夢を見たり、誰かと出会ったり…といった描写です。
3. 冒険の拒否
冒険の旅は危険やリスクを伴うため、主人公は旅立ちをためらったり、否定的な態度を示すことがあります。また、誰か・何かが主人公を引き止めることもあります。
どのような「冒険の拒否」になるかは、主人公のタイプにもよります。
主人公の多くは、最初のうちは冒険に対して消極的に反応します。それでも、次の「師との出会い」や何らかの事情により、冒険に旅立つことになります。
嫌々ながらも結局行動をすることになるのがこのタイプの主人公。
一方、冒険に最初から積極的な主人公の場合には、それを引き止める原因が生じます。
冒険に最初から積極的な主人公の例が「ワンピース」のルフィと「ナルト」のナルトです。
例えば、「ワンピース」(第一話)では、幼いルフィがシャンクスの船に乗せてもらえるよう頼みますが、シャンクスはそれを拒否します。
また、「ナルト」(第一話)では、ナルトは火影になるという夢があるにもかかわらず、忍術が使えず試験を受けることすらできません。
4. 師との出会い
主人公の成長が重要になる物語では、必ずといっていいほど「師(メンター)」が登場します。
師は、時に、主人公に試練や知恵、勇気を与え、導いてくれます。
なお、師は一人とは限らず、この先の場面(第二幕など)で登場することもあります。
5. 最初の戸口の通過
主人公が平穏な日常を離れ、冒険の世界へと旅立つパートです。
戸口を過ぎると、後戻りはできなくなります。
「未知の世界に飛び込んでいくぞ」という主人公の意志が現れるシーンでもあります。
この時、門番のような敵を倒すなどして、第一関門を突破することがあります。
例えば、「桃太郎」では、きび団子を持って、鬼退治にいざ出発!というのがここにあたります。
第二幕 冒険の旅
ここから第二幕に入ります。
6. 試練、仲間、敵
冒険の世界へと足を踏み入れた主人公は、数々の試練にさらされます。
その中で、仲間や敵(ライバル)と出会ったりします。
試練を乗り越えて、主人公は冒険の世界で成長していきます。
例えば、「桃太郎」では、冒険の途中で犬、キジ、サルに出会います。
7. 最も危険な場所への接近
主人公は、冒険の旅の中で、最も危険な場所へと近づいていきます。
最大の敵に出会う前の準備・通過点として描かれることが多いです。
8. 最大の試練
物語の中で、主人公が最も大変な思いをする、最大の苦難が立ちはだかります。
ここでの危機とは、「自分の計画に対する最大級の危険」「主人公が一番恐れること」という意味です。
主人公が死と再生を経験する場合が多いのもこのシーン。文字どおり死んで復活しなくても、一度倒されたり、誰かとの関係が終わったりするのも「死」にあたります。
また、ここが物語の中間地点となります。
9. 報酬
最大の試練を乗り越えると、主人公はその対価である報酬を受け取ります。
探していたものを手に入れるシーンでもあります。
例えば、「美女と野獣」のベルと野獣のロマンチックなワルツは、野獣の恐ろしげな外見の奥を見抜いたことの「報酬」です。
「報酬を得たらハッピーエンドで終わり」ではなく、報酬を得た後は、また冒険が続きます。
第三幕 帰還
ここからが第三幕、クライマックス~エンディングになります。
10. 帰路
報酬を手にした主人公は、故郷への帰路につきます。
冒険の世界に留まるのか、元の日常の世界に戻るのか選択を迫られることもあります。
このシーンですぐに日常に戻るわけではなく、そこまでの過程が描かれます。
この「帰路」は、第二幕から第三幕からのもう一つの戸口でもあります。
11. 復活
クライマックスシーンにあたるのがこの「復活」です。
バトル漫画だと、最大の敵や障害によって、絶体絶命のピンチに陥った後に主人公が変化・成長し、敵を打ち破るのがこの場面。
「8. 最大の試練」は中間試験、「11. 復活」は学期末試験に例えられます。
「最大の試練」で学んだことが再度試されるイメージです。
12. 宝を持っての帰還
敵を打ち破った主人公は、平和を取り戻し、日常に戻ります。
物語はここで終わりを迎えます。
「美女と野獣」を「ヒーローズ・ジャーニー」で解説
上の説明でもまだ分かりにくい部分があるかもしれませんので、「美女と野獣」を「ヒーローズ・ジャーニー」の12のステージに分けて解説していきます。
どのシーンがどのステージに当たるかは、個人の解釈にもよりますので、一意見として参考にしてもらえたらと思います。
「美女と野獣」のあらすじは、Wikipedia版(1991年と2017年の映画版)を使いました。
※ベルを主人公としてベル目線で書いています。
「ヒーローズ・ジャーニー」って女性にも適用できるんだね!
1. 日常世界
城の近くにある村では、父と共に暮らすベルという女性がいた。彼女は物語を読みふけり冒険を夢見る教養ある女性だったが、村の人々は彼女の教養を理解せず奇異の目で見ていた。そんなベルに一目惚れした村の英雄・ガストンは男らしさを見せつけて求婚するが、彼の下品さや乱暴さを嫌っている彼女は求婚を断る。
2. 冒険への誘い
前日に出かけた父の愛馬が彼を乗せずに戻って来たのを見たベルは、父の身に何かあったと感じ、馬に乗り村を飛び出す。
3. 冒険の拒否
城に辿り着いたベルは牢獄に捕らえられている父と再会するが、父は城から逃げるようにベルに告げる。そこに野獣が現れ、ベルの父がバラの花を盗んだ罪で終身刑になったことを告げる。
5. 最初の戸口の通過
ベルは父の身代わりになること決意をし、城に残った。
4. 師との出会い
※5と順番が逆
野獣の家来ルミエールは、ベルが呪いを解くための女性だと考え、他の召使いが引き留めるのを無視して彼女を牢獄から出して一室を与える。
6. 試練、仲間、敵
城に残ることになった失意のベルを、ポット夫人やルミエール、置き時計のコグスワースなど家財道具に変えられた城の召し使たちは快く受け入れ持てなしてくれた。
7. 最も危険な場所への接近
ベルも次第に気を取り直し城の生活に馴染もうと努力するが、礼儀知らずで我がままな野獣の凶暴な振る舞いに耐えかねて城を飛び出してしまう。
8. 最大の苦難
ベルは、吹雪の中で野生の狼に襲われるが、すんでの所で駆けつけてきた野獣に救われる。この事件をきっかけにベルは醜く横暴な野獣の心の中に残る優しさに気づき、野獣も彼女の優しさに触れお互いに心を通わせるようになる。
9. 報酬
野獣は徐々に人間らしい心を取り戻してベルに想いを寄せるようになり、ベルもまた、野獣に惹かれていく。二人だけの舞踏会が開かれる。
10. 帰路
父を助けに街に戻ってきたベルは、ガストンに対し、野獣は優しい心の持ち主だと説得するが、嫉妬と怒りに駆られたガストンは、ベルと父親を閉じ込め、野獣を殺すために城に襲撃しに向かう。野獣の召使いの助けを得て脱出したベルは、大急ぎで城へと引き返す。
11. 復活
ベルが城に駆けつけ、野獣がガストンを追い詰めたが、温情が仇となり、野獣はガストンに短剣を突き立てられ瀕死の重傷を負う。愛と別れの言葉を口にし事切れた野獣の亡骸に縋り、涙をこぼしながらベルが愛の告白をすると、野獣の体が光に包まれ、野獣は元の王子の姿に戻って蘇った。
12. 宝を持っての帰還
王子の眼差しから彼が野獣本人であることを確信したベルは喜びと共に口づけを交わしあう。すると降り注ぐ光と共に厳めしい形に変えられていた城は元の荘厳な姿に、召使い達は元の人間の姿に戻っていった。こうして、人間に戻った王子とベルは結ばれ、本来の美しい姿に戻ったお城で末永く幸せに暮らした。
ヒーローズ・ジャーニーを知っておく意味とは?
ヒーローズ・ジャーニーを知っておくのがなぜ重要かというと、多くの人が無意識下で「ヒーローズ・ジャーニー」の要素を求めているためです。
ヒーローズ・ジャーニーに沿って物語を作れば必ず良いものが作れるというわけではなく、ヒーローズ・ジャーニーに従っていなくても、素晴らしい物語はたくさんあります。
また、恋愛が主となる作品など、ヒーローズ・ジャーニーを当てはめるのがむずかしいようなジャンルもあります。
それでも、ヒーローズ・ジャーニーを知っておくと良いのは、多くの人の無意識下に「ヒーローズ・ジャーニー」の下地がすでにあるためです。
「スターウォーズ」「タイタニック」、ディズニーのアニメなど、ヒーローズ・ジャーニーを使った映画や物語は数多くあります。小さい頃からそれらを目にすることで、実は私たちは「ヒーローズ・ジャーニー」に慣れ親しんでいるのです。
そのため、「ヒーローズ・ジャーニー」の要素を取り入れると人の心を掴みやすくなり、逆に、「ヒーローズ・ジャーニー」を完全に無視したようなことをすると、不快感を与えてしまう可能性もあります。
物語の読み手にそっぽを向かれないためにも、「ヒーローズ・ジャーニー」の要素をどこまで使うかは別として、「ヒーローズ・ジャーニー」を理解しておくことが重要なのです。
「ヒーローズ・ジャーニー(英雄の旅)」まとめ
この記事では、「ヒーローズ・ジャーニー」の理論と具体例をご紹介しました。
物語を読んだり創ったりするのにはもちろん、人生にも応用できますよ!
ぜひ活用してみてください。