物語の登場人物を考える時、何かお手本ってあるのかな?
マンガや小説、映画などの物語の構成のガイドとして「ヒーローズ・ジャーニー」が広く使われています。
ヒーローズ・ジャーニーほど有名でないかもしれませんが、物語の登場人物のお手本・ガイド「アーキタイプ」というのも実は存在します。
今回は、その「ヒーローズ・ジャーニー」に出てくる登場人物の「アーキタイプ」について詳しくご紹介していきます。
「アーキタイプ」って何?その意味とは?
アーキタイプとは、スイスの心理学者、カール・ユングが用いた心理用語です。
日本語では「元型」とも訳されます。
ユングは、個人の無意識のさらにその奥に、人類が共通して生まれ持っている無意識(集合的無意識)があると考えました。
その集合的無意識によって働く、「人類に共通する心の動きのパターン(型)」が「アーキタイプ」です。
そのうち代表的なのが次のものです。
- グレートマザー:あらゆるものを育てる母・太母
- シャドー:影、もう一人の自分
- アニマ:女性的な側面
- アニムス:男性的な側面
- トリックスター:道化師・いたずら者
- ペルソナ:外(社会)での自分の顔
- ワイズ・オールドマン:老賢者(師)
このユングの「アーキタイプ」をもとに、「多くの物語に共通してみられる登場人物のタイプ」を提唱したのが、クリストファー・ボグラーという人。
「ヒーローズ・ジャーニー」を今、世界で広く使われている12ステージに構成し直した人物でもあります。
そのクリストファー・ボグラーが「作家の旅 ライターズ・ジャーニー 神話の法則で読み解く物語の構造」で挙げたのが、次の8つの登場人物のタイプです。
- 英雄
- 師
- 戸口の番人
- 使者
- 変身する者
- 影
- 仲間
- トリックスター
これらが具体的にどのようなもので、どのような働きをするのか、見ていきましょう。
ヒーローズ・ジャーニーのアーキタイプ
分かりやすいよう、「登場人物のタイプ(アーキタイプ)」と表現していますが、実は、物語に出てくる次のアーキタイプが必ずしも「人」である必要はありません。
特に、「戸口の番人」と「使者」については、モノや経験で代用されることがあります。
1. 英雄
英雄の元の意味は、「守り奉仕すること」で、元から自己犠牲と結びついているとされます。
「英雄」のアーキタイプは、アイデンティティや完全する自我の象徴でもあります。
物語での「英雄」の役目には、
- 読み手・観客が自分と同一視しやすい要素を持つこと
- 成長し、学ぶこと
- 自ら行動すること
などがあります。
強く勇敢な人物というよく思われがちな「英雄」の性質よりも重要なのは「犠牲」。
また、実際の死に直面しなくても、象徴的な死の象徴、駆け引き、恋愛などでの、自分または大切な人の死との対峙が重要な部分となります。
英雄のタイプ
英雄には、冒険に意欲的な英雄と、乗り気でない英雄がいます。
よくあるのは、最初は受け身で渋々行動していたのが、ある時点で変化していくというタイプ。
弱気な主人公の場合にはこのタイプが多いです。
例えば、「アイシールド21」「家庭教師ヒットマンREBORN!」など。
冒険に意欲的な英雄がいるマンガの例には、「ワンピース」「ナルト」「ブラッククローバー」があります。
さらに、アンチヒーロー的な英雄というのもいます。社会的な視点から見ればアウトローや悪党に見えるものの、観客が共感できる人物のことです。
例えば、古典的なものであれば「ロビンフッド」、最近のものであれば「チェンソーマン」がこのタイプです。
2. 師
師は、「英雄」を助けたり、教えたり、鍛えたりする人物です。
「英雄」が行動を起こすよう、動機になるものを示したりすることもあります。
例としては、シンデレラを助ける魔法使い、「アーサー王伝説」の魔術師マーリンなどがあります。
多くのマンガや映画で師は登場するので、「師」のアーキタイプは分かりやすいですよね。
心理的には、親のイメージとも関連している場合があります(例えば、シンデレラの魔法使いは母の代わり)。
3. 戸口の番人
どんな「英雄」(主人公)も冒険の途中で障害に出会います。
その障害を形にしたものが「戸口の番人」です。
悪役の補佐や中立的な存在の人だったり、場合によっては、悪天候、不運、入学試験など、人の形をしていないこともあります。
「戸口の番人」の役割は「英雄」をテストするということ。
「英雄」は、知恵を振り絞ったり、敵に見える相手を仲間にしたり、時にはいったん逃げたりして、「戸口の番人」を切り抜けていきます。
「戸口の番人」として、実際に試験を行うマンガの例としては、「ナルト」や「Hunter × Hunter」があります。
「戸口の番人」がいなかったり、極端に弱かったりすると、読み手・観客がもの足りなく感じてしまいます。
4. 使者
「使者」は「英雄」に対して変化の必要性を知らせる人物のことです。
夢の中の人や実在の人の他にも、電話、手紙、過去を思い出されるもの、ニュースなどがあります。
「英雄」に変化と冒険が訪れるという知らせをもたらすものです。
「ハリー・ポッター」(第1巻)のハグリットの役割はその典型例と言えます。
5. 変身する者
「変身する者」は、言葉のとおり、見た目や気分が変化するなどして、本性が見抜きづらい登場人物のことです。
心理的には、アムニス(男性的な側面)とアニマ(女性的な側面)を表現していると言われています。
「変身する者」は、物語に疑いやサスペンスをもたらします。
例えば、「この人は味方なんだろうか、敵なんだろうか?」という動きをする人がそれに当たります。
実際に変装する人も「変身する者」です。
例としては、「白雪姫」でりんご売りのお婆さんに化けたお妃、「ルパン三世」の峰不二子などが挙げられます。ちなみに、ルパン自身も変装するので、ルパンは「英雄」であって「変身する者」でもあります。
6. 影
「影」は暗い部分や自分の忌み嫌う部分を表すアーキタイプで、多くの場合、悪役、敵などの登場人物にそれが投影されます。
「戸口の番人」との違いは、「戸口の番人」が「ひっかけ」なのに対し、「影」は人を破滅に追いやろうとする破壊的な力になる点です。
強い敵こそが英雄を試練に立ち向かわせるので、「影」は重要なアーキタイプです。
中には、「ピーターパン」のフック船長など、人間味のある魅力的な「影」もいます。
7. 仲間
「仲間」は主人公の話相手となり、人間的な感情を引き出したりする人物のことです。
危機の時に手を差し伸べてくれる力の象徴でもあります。
例としては、「ハリー・ポッター」のロンとハーマイオニー、「シャーロック・ホームズ」のジョン・ワトソン、「ワンピース」の麦わらの一味など。数限りなく挙げられそうです。
8. トリックスター
「トリックスター」とは茶目っ気やコミカルさを表す登場人物のことです。
深刻になりすぎている時に笑いを提供したりします。
例えば、うさぎとカメの物語のウサギや、「ワンピース」のバギーもこのタイプだと言えそうです。
「ハリー・ポッター」のダンブルドア校長は時々茶目っ気を見せて、「師」としての側面だけでなく、「トリックスター」を演じることもあります。
アーキタイプはどう活用できる?
マンガや小説を創作する場合には、これらの8つのアーキタイプを念頭に置いておくことで、作品をより良いものにしていくことができます。
具体的な方法としては、ストーリーや登場人物のプロットを考える段階で、次の点をチェックすることです。
- 8つのアーキタイプが含まれているか?
- 入っていない要素がある場合には、それを何らかの形で含めることで、より奥深い作品にできないか?
なお、この8つのアーキタイプは、物語のどの時点に出てきてもかまいませんし、決まった登場の順番もありません。
また、複数の登場人物が同じようなアーキタイプを担うこともあります(例:仲間が数人いる)。
逆に、一人の登場人物が二役三役といった形でアーキタイプを担うこともあります。
例えば、「仲間」だった登場人物が離脱して「変身するもの」や「影」になったり、「使者」が「トリックスター」だったりする場合です。
「ハリー・ポッター」のハグリットは、典型的な「使者」ですが、「トリックスター」的な役割も演じています。
8つのアーキタイプを組み合わせることで、より奥深さのある登場人物を作り上げることができます。
主人公にとって「影」の人物は、自分が「英雄」で主人公こそ「影」だと思っているかも。視点を変えて考えるとより良い物語になりそうだね。
ヒーローズ・ジャーニーのアーキタイプまとめ
今回は、「作家の旅 ライターズ・ジャーニー 神話の法則で読み解く物語の構造」で「ヒーローズ・ジャーニー」と一緒に紹介されている、8つの登場人物のタイプ(アーキタイプ)について解説しました。
- 英雄
- 師
- 戸口の番人
- 使者
- 変身する者
- 影
- 仲間
- トリックスター
言葉ですぐにイメージできなくても、内容を聞くと「ああ、あれね!」と納得する部分もあるのではないでしょうか。
もう少し詳しく知りたい人は、ぜひこちらの本を読んでみてください。